INTERVIEW(2)――女性の声をロック的に使えれば
女性の声をロック的に使えれば
――スロッビング・グリッスルやスーサイドに限らず、いままで話に出てきたアーティストのエッセンスは軒並み今回のアルバム『1暴2暴3暴4暴5暴6暴、東洋のテクノ。』からも感じられるように思いますね。J.M.さんはいかがですか?
J.M.「私はヒップホップから入って、ドクター・ドレーとかの音にハマりはじめて、そっから、塔山に教えてもらったジョイ・ディヴィジョンにいったんですよ。でも、最初は拒絶反応があって。音がちょっと感情的というか……」
――負の空気感はありますよね。
J.M.「うん。リラックスして聴ける感じではなかったんで。でもジョイ・ディヴィジョンからニュー・オーダーを聴かせてもらって、そっからUKの魅力にハマりはじめた感じなんですけど、塔山みたいに積極的にCDを買い漁るっていうことはないですね。街のなかで流れてる音楽を聴いて、〈このエッセンス、いいな〉って興味を示したりっていうパターンはあるんですけど。でも、良い/悪いっていう自分のなかの物差しは持ってると思います」
――その〈物差し〉とは?
J.M.「なんか、60年代、70年代、80年代の音楽が、逆に新しく聴こえたりして。そういう、昔の音楽のなかの新しく感じる部分っていうのは、大事」
――それは、最近ありました?
J.M.「塔山がさっき言ってたDAFは、けっこうドンピシャでした。パフォーマンス含め、そこにあるパンク感は刺激的でしたね」
塔山「DAFを知ったのも、別に興味を持って調べたわけじゃなくて。僕のTwitterにフォロワーでもなんでもない人から書き込みがきてて、〈これ観てください〉みたいにリンクが貼ってあって〈なんだろう?〉って。よほど王子様みたいな人が映ってるのかと思ったらDAFの映像で、変な外人が、変な場末のクラブみたいなところで、延々とフラフラしてるっていう(笑)」
――はは。でも、その映像を薦めてきた方の気持ちはわからなくもないです(笑)。
塔山「で、通りすがりなのに、けっこう重たいもん置いていくんですよ。〈これを日本で超えられるのは、あなたしかいないと思ってるから〉って。俺は思いましたよね、〈こんなん超えたないわ!〉って(笑)」
――(笑)あの珍妙さは、なかなか超えられるものではないかもしれませんね。
塔山「そうですか。じゃあ超えてやりますよ」
――(笑)ちょっと話が前後してしまうんですけど、お二人はどうやって知り合ったんですか?
塔山「僕がひとりで曲、書きたいなーってなったときに……あの、僕ね、女の人のヴォーカルがけっこう好きなんですよ。男の人メインのものに、ふいに女の人の声が入ってたりすると、格好良いなあって。例えばジザメリのファースト『Psychocandy』の“Just Like Honey”とかも、ツイン・ヴォーカルではないんですけど、さり気なく入ってる女性のコーラスがすごいインパクトを残してて、それがアレンジとして格好良いな、と。女性の声をロック的に使えればいいな、ってずっと思ってたんですよね。曲もそういうイメージで書いたりしてたんで、誰か、ヴォーカルを入れてくれる女の人、いないかなーと思ってたら、さっき話に出た、俺を紀伊国屋連れてったやつがカメラマンみたいなのもしてて、モデルの知り合いの子がいるから、っていうので紹介してもらったんです」
J.M.「でも、最初は音録るとか具体的なことは全然思ってなくて、趣味的なイメージだったんですよね。それで、しばらく連絡を取らずにいたら制作にすごいのめり込んでたんで、〈マジなんか!〉って(笑)」
ハードなんだけど、でも
――それがファースト・アルバム『Zoo&LENNON』ですか?
塔山「そうですね。制作の過程をほとんど教えずにレコーディングで歌ってもらう、みたいなパターンがいまもあるんですけど、それはその頃の名残ですよね」
J.M.「そうそう。ぶっつけ本番で、やれ、って。で、とにかく声は張るなと」
――それがだんだん変わってきてますよね。
J.M.「そうですよね。ファーストのときは完全にコーラスで、フワ~ッとした、ウィスパーなイメージだったんですけど、『エスノファンキードフトエフスキーカムカムクラブEP』(2010年)の“21世紀の自殺者”で歌え、みたいな感じになって、そこからちょっとずつ声を張る要素が出てきたんですよね」
塔山「もっとガシガシ二人で歌ってもいいんじゃないかな、って、だんだん思うようになって。例えばリアム/ノエル(元オアシスのギャラガー兄弟)みたいな、曲によってどっちかが主メロ取って、っていうのが曲の可能性を殺さないな、と思って、どんどんそういうふうになっていったんですよね」
――いまは、ほぼツイン・ヴォーカルといってもいいぐらいじゃないですか?
塔山「そうですね。いろんな意味で、幅を広げたいんですよね。変な話、音楽のジャンルもジャズがやりたかったら0.8秒と衝撃。のジャズをやればいいと思いますし。そういう意味でも、この人がすごく喚いたりとか、汚い言葉を言ってみたりっていうのも、それはそれで俺たちのポップになるんじゃないかな、って。その大事なキーワードのところを――歌詞って言ってもいいか、そこを俺が言うんじゃなくて、あえてこの人に言わせるっていう。曲書きとして見たときに、そういう可能性が根底にあると、アレンジもまた違ったものを呼べるっていうか、楽しいんです。そういう感覚的な雑食性は欲しいんですよね」
――そこは、曲を書きはじめた頃からずっと大事にしている?
塔山「そうですね……例えばファーストだとアコースティック・ギターをテーマにやってたんですけど、今回は、まあミュートとかもそうだけど、いろんなアーティストを聴いてみて、ボディー・ミュージックっていうか……キラキラしたダンス・ミュージックじゃなくて、どっちかっていうとブルースとか、ヒップホップとかのフィーリングのある、ロックの人が手作りでやったようなビート・ミュージックがやりたくて、それで人工的なリズム・ボックスっていうか、ビート・マシーンみたいなものを主軸に持ってきて、やろうと思ったんですよね。個性出したかったんで、そのマシーンも回路とかに詳しい友達といっしょに改造して。キックの音色がね、全然違うんですよね。そこがハマったら、こういう曲書きたい、ああいう曲書きたい、ってなってって。それでね、あの~、東京って、図書館に名盤がいっぱいあるじゃないですか」
――ありますね。
塔山「すごいなと思って。大阪とかそんなのないんですよね。そこでデヴィッド・ボウイの『Low』を借りて聴いたとき、自分でリズム・マシーンを組んで〈こういうのをやりたいな〉って思った方向とピッタリだったんですね。ちょっと変なんですよね、ビートが。わかりやすく言うと、ズッチャ・ズッチャ、っていう感じではないんですけど、パッと聴いた感じではポップっていう、そういう質感のものを作りたいな、って思ってたんです。あの……最初に言われて嬉しかったんですけど、俺らのライヴを観てね、〈あっ、こいつらけっこういい奴そうだな〉と思われると嬉しいんですよ。そういう人懐っこさみたいなのは音にも欲しいんですよね。知り合いのエンジニアの人にも言われたんですけど、俺の作るビートがなんか、いい意味で可愛い、って。そういう人懐っこい感じとか可愛い感じが、勝手に音に出てんのが嬉しいなあって思うんです。単にハードなことって、やろうと思えばけっこう簡単じゃないですか。でも俺は、人が聴いたときに〈ハードなんだけど、でも〉って思うようなところで勝負したい。アコースティック・ギターがテーマだったファーストと今回のアルバムは、俺のなかではやってることはいっしょなんですよね。テーマが違うだけで、0.8秒と衝撃。の音楽としては、一本筋を通してやってるつもりなんで。だから、1枚目はいいけど2枚目のは激しすぎて嫌だなーって言われたら負けですよ、俺の。でも、そう言われない自信はあるんです」