インタビュー

INTERVIEW with 桜井青(2)――好きだって言えないラヴソング



好きだって言えないラヴソング



――そして青さんの曲は“初恋中毒~BL編~”ですが。


「この曲はね、もともとハタチ・セカンド・シーズンを迎えてから〈ラヴソングを作る〉みたいなことを公言してたんですけど、かと言って、ヒット・チャートを賑わせてるようなラヴソングは書けねえわ、って。〈これを石井さんが歌うの?〉って。まあ最終的には、今回の僕の歌詞も〈これ石井さんが歌うの?〉ってとこで問題があるんですけど」


――歌は今回、青さんですもんね。


「そうですね。まあ結果的には、cali≠gariがラヴソングを書いたらどうなるんだろう?っていうところですよね。僕、ホントにラヴソングが好きなんですよ。〈ラヴソングの帝王〉と呼ばれた崎谷健次郎さんとか、オフコース時代の小田和正さんとか。でもあれってあの時代だから許されるし理解もされる歌詞で、一歩間違えると『≠』(2010年のミニ・アルバム)に入れた“クロニック ダンス”みたいになりかねないんですよ。だから、いま僕が使っている文体でラヴソングを書いたらどういう切り口になるだろう?っていうところで、情けないラヴソングを書いてみようという。なんか、ラヴソングってわりと二極じゃないですか。〈愛しているー!〉〈もう別れるー!〉みたいな。そのどっちにも最高峰の専門家がいるわけで、専門家の人が書くぶんには素晴らしいんだけど、いかんせん僕はどっちの専門家でもないので、ラヴソングのビギナーとしてはちょっと違う切り口でやるしかないんですよね(笑)。邪道なラヴソングを作るしかないわけですよ。そしたらこう……フッ(吹き出す)、大人になれない子供のラヴソングが出来たわけです(笑)。この、好きだって言えない感じ(笑)。でもこういう人っていっぱいいると思うんですよね」


――そう思います。


「なんかこう……好きになったら好きになったで想いが告げられなくて、想いが告げられないままいつの間にかその気持ちがなくなってしまって、また別の人を好きになって、でもまた想いが告げられなくて。延々と初恋が終わらないっていうね」


――歌詞には〈大人の階段下りる!〉とありますが(笑)。


「完全にH2Oの“想い出がいっぱい”です(笑)。大人の階段を上れた“想い出がいっぱい”みたいな青春を送れた方々とかってそんなにいないと思うんですよね。実際はこうはいかないぜ、って。いまの秋葉原に、初恋の相手に告白できた人間が何人いるんだか。そういうこと考えながらね、書いてたんですけど。告白って難しいですよね」


――難しいんじゃないですかね。特に、大人になると滅多にしなくなると思いますし。


「難しいですよね~、本当に。もうね、歌詞を語りはじめるとページが足りなくなってくるんですよ。想いがいろいろこもってるから。自分も昔はそうだったな、みたいな。これはだから単純に、bounceをね、読んでいらっしゃる方もご存じだと思うんですけど、ガチホモじゃないですか、僕なんて(スタッフ一斉に苦笑)。それを踏まえるとね、いままでcali≠gariで作ってたちょっと切なくて甘酸っぱい曲、そういうものを僕はラヴソングとまでは思ってないんですよね。個人的な、極めて私小説的なものをラヴソングって言うのであればまあそれでもいいんですけれど、やっぱり恋愛重視では書いてないんですよ。いろんな、ちょいちょい出てくるホモ的キーワードもね。でも今回はそうじゃなくて。恋する気持ちってのは、男だとか女だとか関係なく、どいつもこいつも似たようなもんだよ、って。だから男も女もヘタレの恋愛はヘタレの恋愛なんだ(笑)っていうことをね、そういう視点で書いたんですけど」


――〈BL編〉とはありますけど、女の子の視点で見ても〈わかる!〉っていう。


「これ、単純に僕が歌ってるからノリでBLにしてるだけであって、女の子にも、男の子にも、〈言わなければ伝わらない!〉ってところを読んでいただきたいですね。つーかね。初恋なんていうのは基本、成就しないんですよ。でもね、告白しないと初恋って終わらないから。僕のなかの定義で、初恋って初めてした恋じゃないんですよ。告白してこそ初めて初恋が終わるっていうのが僕のなかではあって」


――なるほど。じゃあこの曲の主人公は、例えばティーンなどに限らず。


「そうそうそう。終わらないから〈初恋中毒〉なんですよ。もっと恋愛にこなれなさいよ、みたいな」


――(笑)青さんはこなれてるんですか?


「あ、僕は基本的にぽっちゃりしたデブがいたら、〈可愛い! ヤラせて!〉って言っちゃう」


――ストレートですね(笑)。


「だいたいフラれるんですけどね。まあほら、ホモの恋愛なんて心より先に肉体関係のほうがインスタントにできちゃうもんだから、僕はもうホントに、玉砕してナンボで。だから僕は、どっちかって言ったら〈失恋中毒〉なんですよ(一同爆笑)」


――そんな方が書いた“初恋中毒”(笑)。


「失恋中毒してるぐらい失恋しまくってる人間が応援するんです。初恋も大事だけれど、とりあえず1回告白しなさいよっていう。失恋してからこその、大人の恋ですよって。がむしゃらに、大人の階段を駆け下りなさいと」



直せるものを直さない



――(笑)そして曲のほうは疾走感のあるギター・ロックですが、先ほど出た〈ヘタレ〉感にも通じる、絶妙に力が入ってんだか入ってないんだかわからないコーラスが良いなあと思って(笑)。


「流石ですよね(笑)! あれはね、もう締め切りクライマックス限界で歌詞も書かなきゃいけないっていうので、コーラスワークを石井さんに任せちゃってたんですよ。この通りにやってくださいって言って、僕は充電のために倒れて。で、ウチの周りの人も器用だから、〈何度でハモって!〉って言ったらそれでハモれる……んですけど、今回はメンバー以外の方も何人かいたので、ノリで、その場にいた貝原さん(レーベルのボス:討論会にも参加)だったり、ボビーさん(マネージャー)だったりをスタジオにぶち込んで、みんなにやらせたんですよ。でも、みんながみんなちゃんとした音感があるとは限らないわけで、出来上がったのを聴いて〈石井さん、これアリ?〉って言ったら石井さんもちょっと困った顔したんだけど、〈でもこれって、直すのは逆に簡単だけど、直さないで出したほうがやっぱりウチらなんじゃないか〉って」


――そこは、石井さんがおっしゃるイビツなポップさですかね(笑)。


「どうなんですかね(笑)? 直すのはホントに簡単なんですよ。いまなんて、一瞬で直せるし。でも、その場の生の空気みたいなのがありますよね。こういう曲で、みんながその場で一瞬だけでも団結して、ワーッてやってくれた、みたいなさ。そういう空気って僕、好きなんですよね。で、そういうのを大事にした結果、〈半音ズレてんじゃね?〉みたいなコーラスが若干1名入ってたり(笑)」


――そういうところから、一生懸命さが伝わるんですよね。それでも爆笑してしまいましたが(笑)。


「ね? それは、ウチだから許してっていう(笑)。でも聴いてるうちに慣れますよ」


――慣れるというか、耳に残って離れないです。


「まあ、ね、許される悪意と許されない悪意ってものがあるわけですよ、ウチには。これは許される悪意なんです(笑)。直せるものを直さないって、いいですよね。嫌がらせか? 聴いてる人に対するっていう(笑)。おもしろい悪意じゃないですか」



カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2011年11月16日 18:00

更新: 2011年11月16日 18:00

インタヴュー・文/土田真弓