INTERVIEW with 石井秀仁(1)――狙い撃ち的な曲
狙い撃ち的な曲
――前作の〈#〉の取材のときは、いま次のアルバムの曲を作っているというお話だったところが、シングル〈#_2〉のリリースに変更となりまして。
「はい」
――ただ、これは前回の記事のなかには載せなかったんですけども、石井さん、そのお話の最後にこうおっしゃってたんですよね。自分のなかでは聴く人に対してずいぶんと優しい曲を――テンポ感があって、印象に残るヴォーカルラインがあって、〈いい曲だなあ〉って思える歌モノを作っているんだけども、いま落としどころを見失ってて……って。“暗中浪漫”はもしかして、その曲ですか?
「あんまり覚えてないけど、そうかもしれない。〈落としどころを見失ってる曲がある〉って言ってました?」
――言ってました。〈歌が立ってる曲を作ってるんだけど〉って……。
「あ、じゃあこれでしょ(笑)」
――では無事に落としどころも見つかって。
「いや(笑)」
――えっ!?
「その〈落としどころ〉っていうのはたぶんね、ほら、シングルうんぬんって話ではなかったから、例えばアルバムで10数曲とか並べたときに、これはどのポジションに当てはまるのだろうかとか、cali≠gariに似合う形でフィニッシュするにはどうしようかとか、そういったところだったと思うんですよね。この曲は、狙い撃ち的なところがあるわけですよ」
――狙い撃ち?
「そもそも、例えばアルバムを出そうという頭で曲を作ってるときって、全体を見て作るところもあるじゃないですか。おんなじような曲が何個もあってもしょうがないだろうし、特にcali≠gariの場合は、個人的にはそこを結構考えてから作るところがあるんですよね。アルバムの曲順で聴いたとき、この曲はこの位置にあるからこういうふうに聴こえるとか、そういうことを考えるんだけど、“暗中浪漫”の場合っていうのは……うーん、cali≠gariっていわゆる普通の曲があんまりないから……この〈普通の曲〉っていう言い方も嫌なんですけど。簡単に言えば、耳馴染みが良くて覚えやすい、一般的にはシングル・カットしてきそうな曲っていうことですよね。で、そういう曲をアルバムの6曲目、7曲目ぐらいに入れて、〈これ、すげえ良い曲なのになんでシングルにしないんだろうね〉って思わせる、みたいなのが狙いだったという。それがシングルになってしまったので……その、ね(苦笑)」
――石井さんの狙いとは真逆のところへいってしまったと。
「まあ、そういうことになるんですけど。あのね、別に客のこととかどうでもいいんだけど、誤解されたくないところがあるわけですよ。cali≠gariが意識的に何かを変えて、こういう曲をシングルとして切ったっていうことではないと。よく〈cali≠gariが変わっちゃった〉みたいなことを言う人もいるじゃないですか。変わるのはあたりまえだけど、そういう変わり方ではないってことですよね。わかりますかね? この感じ」
――定型では……という言い方もなんですが、“暗中浪漫”はシングルに向いているようなポップソングなんだけれども、あえてそういう位置付けにしないところにおもしろさを見い出そうとしていたということですよね。
「そうです」
――でも、シングルとして切られてしまったと。
「そういうことですね。だから、初めてcali≠gariを聴く人の入り口になるぶんには全然構わないんですけど、コアなファンの方ってたくさんいるじゃないですか。いつもは誤解してほしいタイプなんですけど、今回に限っては、そういうコアな人たちの誤解を招きたくないっていうのはありますね」
温度感がないポップソング
――本来はそういう位置付けだった“暗中浪漫”は、やはり歌が立ったポップソングを作ろうと?
「そうですね。あとは温度感がないタイプの曲っていう。語弊があるかもしれないですけど、ポップソングって、どっちかっていうとアッパーで明るい、みたいな感じがあるじゃないですか。でもこの曲にそういうところはないですよね? そっち方面ではなく、少し温度は低めで、みたいな。cali≠gariのイメージにあんまり合ってない感じっていうか」
――ちょっとクールな、洗練された雰囲気ということでしょうか。
「というふうに聴こえるんじゃないですかね」
――その雰囲気にも通じるところですが、最初に聴いたときにタイアップありきで作られた曲かなと思ったので、そうじゃないというのは意外でした。
「そうですか? でも、そう聴こえるっていうのはたぶん、やっぱりcali≠gariのイメージに合ってないっていうことじゃないですかね。バカな要素なんてないっていうね」
――(笑)バカな要素が……ということではないですが、ちなみに石井さんが〈この曲いいな〉って思うようなポップソングってあります?
「たぶんいっぱいあると思いますけど、現代のものっていうのはちょっと、ね、思い付かないですね。最近のポップソングで思うのは、楽曲はよくできてるんだろうけど、ヴォーカルをないがしろにした曲作りをしてるんですよね、みんな。例えばね、ギター1本で弾き語っていい曲っていうのと、ピアノで作曲したいい曲と、そこにヴォーカルまで含まれたいい曲とでは、全部種類が違うんですよ。ピアノで弾いたときはいいメロディーに聴こえるけど、実際歌うと全然キャッチーじゃないってものはたくさんあるんだけど、そういう頭がない人が多いんですよね、すごく。だから、例えばこういう和音があって、ヴォーカルラインがこの位置にくるからすごくいい響きに聴こえる、でも人間の歌を当てはめたときにはそこを変えなきゃいけないものがたくさんあるんだけども、なんていうんですかね? ピアノの進行をどんどんヴォーカルが追っかけていっちゃうような、そういう楽曲がすごく多いと思うんですよ。いま、職業作曲家の方が作ってる楽曲で、ってことですね。すごく自己満足的な作り方っていうか……歌が耳に残るものはあんまりないな、って思いますよね。だからキャッチーなものって少ない。ポップなものはいっぱいあるけど」
――ああ~……はい。
「ヴォーカル・パートのこの部分だけすごく耳に残るような曲ってないんですよね。まあ俺が熱心に聴いてないだけかもしれないけど(笑)、そういうのって、熱心に聴かなくても残らなきゃ駄目じゃないですか」
――ポップソングをテーマにする場合……例えば今回の“暗中浪漫”は、そういうところを大事にして作るという?
「大事にしてっていうか、普段からそういうことって思ってたりするじゃないですか。だから意図的にそうしたってことではないですけどね」
――無意識に。
「うん。だと思いますよ」