インタビュー

INTERVIEW with 1031(1)――オマージュしちゃう可愛げが好き

 

オマージュしちゃう可愛げが好き

 

――アートワークを見て思ったんですけど、もしかして渋谷系周辺がお好きですか?

「大好きですよ。小西(康陽)さんがすごい好きで。これは小西さんの言葉なんですけど、〈自分よりも音楽が好き〉みたいな……〈音楽が好きすぎる〉ってところが好きなんですよね。いまは難しいですけど、当時はサンプリングだけで曲を作ってたりとか。僕、キース・リチャーズがすごい好きなんですけど、キースもそうだし、ルースターズも……そういう〈音楽が好きすぎる人がやってる音楽〉が好きで」

――渋谷系って、ある意味オマージュ文化みたいなところがありますけど、そこはthe HANGOVERSの作品にも繋がるところがあるんじゃないかなって。

「そうですね。ホント、オマージュしちゃう可愛げが好きなんですよね。でも僕、あそこまでお洒落じゃないので。お洒落になれないっていうか、女の子に対してあそこまで近くなれないんですね。ティーンの頃とか大学の頃とかは、〈そういうのはヤワだぜ〉みたいな態度を取ってたんで。キレイにハード・ロックとかパンクとか、そういう男の子っぽいものばっかりを聴いていた時期があって。根っこはそういうモテないコンプレックスみたいな、ニキビっぽい精神性が拭いきれないところがあるので、あそこまでのお洒落さっていうか、パーティー気分ってのは自分にはないんですけど。でも……オマージュとかって角度には共感できるんですよね」

――じゃあ、そういう断片は意図的に入れ込んでる?

「そうですね……やっぱりオマージュみたいな手法が馴染むんですよね。オリジナリティーって言葉が嫌いで。そんな、おこがましいみたいな……自分を押し出すみたいなことを、拒絶しちゃうところがあるんです。それぐらい、音楽の歴史みたいのが好きで。(自分は音楽を)ゼロから作ってるんですけど、あんまりそんな気はなくて……いろんな部品が転がってて、それを集めて作ってるみたいな感覚なんですよね。それってストーンズもそうだし、ストーンズが好きすぎるルースターズもそうだし。1曲のなかにストーンズが4曲ぐらい入ってたりとかして。〈この人、ストーンズ好きなんだな〉って思いながら聴くのが好きなんですね。だから自分も散りばめちゃうんです。コレクターなんですよね。リスナー肌というか」

――その部品は、前作ならジャムの“In The City”がいちばんわかりやすいところですよね。そういう、言わば外装から、それこそネジの単位まであるところが聴いててすごくおもしろかったです。

「前作はそういうのを深入りして作ったんですけど、あんまりリアクションがなくて。やっぱ気が付かないですよね。気が付いてもホントにジャムとかぐらいで。本当は……もし前作を聴いていいなと思ったら、そっからストーンズ聴いてみるとか、そういう元ネタ探しっていうか、そういう経験をしてほしくて作ったんですけど。僕がそういうふうに音楽を掘り下げてきたから。でも、あんまりおもしろいことにはならなかったので、今回はそういう方向じゃなくしようと思って作ったところがあるんですけど。とはいえ、全然ないわけじゃないですけどね」

――うん。私、今回の作品を聴いて、〈ソングライターの人は相当ロックが好きなんだろうな〉って思いましたもん。しかも、時代感が読めないというか。ロックンロールの創世記から90年代頃のパワー・ポップまで……いわゆるチャック・ベリーあたりのロックンロールから始まって、ブリティッシュ・ビート、モッド、ガレージ……とかね、そういう音楽性がパーツ単位で見えるというか。

「そうですね。僕たちが活動してるなかで、対バンだったりとか、CD屋さんのPOPで名前が挙がったりする、括られやすいバンドの系統っていうのがあって。そういう人たちのルーツでいちばん多いのは、やっぱりウィーザーだったりオアシスだったり、the pillowsだったりとかで。けど僕は、当然、いま挙げたような人たちも聴くしリスペクトもしてるんですけど、ルーツはもうちょい前なんですよね。普段も60年代のものをいちばん聴くし。そもそもスタートがストーンズなんで……例えばオアシスは、ストーンズとかビートルズが先に入ってる状態で聴く感覚なんですよね。〈そういうふうに料理するんだ〉っていう感じで。あまり90年代からは影響を受けていないつもりなんですが……でも、自分はちょうど高校とか大学の頃だったんで、僕のメロディーとかは90年代だと思うんですよね、自分でも。サークルで先輩がやってたバンドからも影響を受けてたりすると思うし。自分では知らんふりしてるつもりでも、その頃のスーパーカーとかTHE YELLOW MONKEYとかミッシェル・ガン・エレファントとか、そういう…………8分でちゃんと日本語を歌うメロディーみたいなところは、相当影響を受けているんだろうなって思いますね。オケはずーっと60~80年代ぐらいだと思うんですけど」

――ああ、まさにそうですね。

「そこが……(いっしょに括られやすい他のバンドと)違うところなのかなあって思いますね。僕、エフェクターとかも持ってないし……あんまり90年代っぽい音の作り方とかわかんないかもしれないです。レコーディングでは使ってますけどね、多少は。でも基本的な部分はビートルズといっしょですよね。あと、結構パワー・ポップって言われることも多いんですよ。チープ・トリックとかも相当好きなので、そこもまさにで」

――だけど、パワー・ポップって言ってもウィーザーとかじゃなくて、チープ・トリックなんですね。

「僕、ワイルドハーツがすごい好きなんです。親父的な人がキースだったら、ワイルドハーツのジンジャーは兄ちゃんで。ギターはキースから習って、作曲とか、バンドを組むきっかけはワイルドハーツだった、みたいな感覚なんですよ。ちょうど渋谷系とかUSインディーとかブリット・ポップとかの頃に、ワイルドハーツばっかり聴いてて。ワイルドハーツもその時代のUKにいながら、浮いてたんですよね、どっからも。で、僕は好きなバンドが〈好き〉って言ってるバンドは絶対買う、みたいなふうに掘っていく人だったので、そういう経緯でチープ・トリックとかのパワー・ポップ方向にいきましたね」

――なるほど。the HANGOVERSのサウンドは、渋谷系の手法にいま話に出てきたようなロックンロールを当てはめていったような印象ですね。

「そうですね、うん。でもバンドってみんな、最初は何かが好きで始めたんだと思うし。まあ2パターンあって、自分はとにかく天才だと。俺にマイク握らせたら全員黙らすみたいな、すごい自分、自分みたいなやつか、または音楽好きすぎる人かっていう。渋谷系ってのは多分すごいやり方が上手かったからシーンになったんだと思うし。でも渋谷系に限らず、音楽が好きすぎてやってるって人は、多かれ少なかれそういうオマージュっていうか、薄く何々の香りがするっていうふうに普通はなると思うんですけどね」

――それが、例えばフリッパーズは最終的にオリジナルになったじゃないですか。the HANGOVERSもそうなってると思うんですよ。

「そういうことは、人から言ってもらうことなので。オリジナリティーなんて最初からあるって決まっているようなものだと思うし。それを出そうとすることが野暮だと思うんですよね……でも、〈オリジナリティーがある〉って言ってもらえるのは嬉しいです。どうしたらいいかわからないんですけど(笑)。オリジナリティーって、その人の本棚とかCD棚とイコールだと思うんですよ。その人のコレクションを見れば、その人の個性がわかると思ってるので……そういう自己紹介っていうか、自己PRみたいのが苦手なんですよね。……僕がよくする例え話があるんですけど、すごい大好きな女の子がいて、ふたつのパターンがあって。その子に対して徹夜で曲を書くタイプと、ミックステープをプレゼントするタイプ。僕は、完全に後者なんですよね」

――(笑)話の途中から先が読めました。

「そういうのがロマンティックだと思ってるんですよ、僕は。曲を作ったって……それがその人のことを表してるとは限らないじゃないですか。上手く作れないかもしれないし、自分を武器にしちゃう、自分を信じてる感じが野暮みたいな。でも、自分の好きな音楽とかだったら、絶対信用できるじゃないですか。それで振り向いてくれなくてもいいぐらい、(自分を音楽に)預けられるような……その姿勢が、超ロマンティックだと思うんですよ。だから作る時もそういう感覚なんですよね。これはジョン(・レノン)がやってたから大丈夫とか、そういうふうな感じで」

 

カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2010年04月19日 20:30

更新: 2010年04月19日 21:36

インタヴュー・文/土田真弓