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インタビュー

INTERVIEW with 1031(2)――〈やせ我慢の美学〉

 

〈やせ我慢の美学〉

 

――なるほど。

「音符並べたりとか、チマチマしたことが好きで……コードとかメロディーとかをひねってる作業が好きですね。……でも、ことさらに〈ゼロから作ってる〉みたいなことは言いたくないんです。あとは書くことが好きですね。日本語が好きなんですよ。音楽にのめり込むより前は、本を読むのが好きな子どもで。小説家とか、駄目でも国語の先生とか、そういうのになりたくて。ギター始めてからは、音楽評論家とかにもなりたかったりとか、雑誌を穴が開くほど読んだりするような人だったんで…………自分の言葉を書けるっていうのはすごい大事っていうか、大きいですね。そういう場をいただいて、歌詞を書いて、みんなに聴いてもらえる権利をもらえてることはすごい……嬉しいっていうか……僕は曲先なんですけど、歌詞を書くために曲を書いてるところもあるかもしれないですね。なんか、ギター弾いてると降ってきちゃうっていうか。TV観ながらとか、特にどういうつもりもなく弾いていると、曲になる……曲を作りはじめていることが多いですね。コードと音符の関係とかがおもしろくて。メロディー作りが好きなんですよね。曲が出来れば歌詞も書けますし。そこをなんとなく期待する流れがありますね。で、レコーディングできるみたいな。レコーディングがすごい好きなんですよ」

――どういうところが?

「何かを落ち着いてやるのが好きなんですよ。あっちこっち行って、クッタクタになって歌うより。ライヴはまた全然違う気持ち良さなんで、もう別物ですね。部屋で書いてる作業が好きだし、それをバンドでアレンジして録っていく作業ってのがすごい好きなんですよ。ワクワクするっていうか……ライヴは話すことに似てるとしたら、録ることは書くことに似てるんですよ。……詰められるっていうか、考え抜いて仕上げたいので、そういうのが性に合ってると思うんですよね。ずーっと考えたりして。そういうのが好きですね。話すのが苦手ですね、そう考えると」

――はい。お話ししてる姿を見ていると、〈がんばれ〉ってエールを送りたくなりますね(笑)。

「(笑)こないだも取材の後、雑談みたいな感じで話したんですけど……本当は〈それはAだぜ〉って言い切るほうが良いと思うんですよ。インパクトとか、ロックンロールっぽい振る舞いとか、という意味では。そのほうがカリスマとか、オーラみたいなものに結び付くと思うんですけど。でも、例えば自分が〈Aだぜ〉って言う場合、〈Bもあるじゃん〉っていう違う選択肢とか、相手に与える誤解とかパターンが頭のなかで駆け巡っちゃうんですね。〈A〉って言ってるのに〈A'〉とか思われたら、それは違うなあって。だから、〈A〉なんだけど〈B〉もありますよねって言っちゃうんですよ。(誤解される可能性を)全部を塞ぎたいんです(笑)。何でそうなのかわからないんですけどね。弱気なんです。ビビりというか」

――それは、言い換えれば〈きちんと相手に伝えたい〉ってことなんじゃないですか?

「そうですね。間違いのないように説明したいって気持ちがありますね。本当は洋楽とかの雑誌ばかり読んでたから、ホラ吹きみたいのが好きなんですけど。すごいそういうのに憧れるんですけどね。冗談とホントがわかんないような、そういうバカバカしいのが大好きなんですけど、自分ではできないですよね。だから書くほうが得意なんです。(誤解される)可能性を潰していけるっていうか……自分の歌を聴いてもらう時も、限定したくないんですよね…………どういう感情を持つ歌なのかとか、明るいのか暗いのかとか……想像の余地の大きいものが自分でも好きなので。そっけないっていうか、考えさせる、シュールな、そういうのが好きなので」

 

the HANGOVERS_A

 

――ということは、1031さんの伝えたいことや内面は、実は歌詞にいちばん出ているということですよね。

「でも、直接的ではないというか。そこはぼやかしたいんですね。あの、自由律俳句ってジャンルがあって、5・7・5じゃない俳句なんですよ。尾崎放哉っていう人がいるんですけど、有名な句だと〈咳をしても一人〉っていう……それが、歌詞を書くうえで理想なんですね。削ぎ落とせる限界まで落とすっていうか……だからワンセンテンスにも命をかけるような感じなんですよ。圧縮するっていうか。仮にきっかけとなる経験とか、想いみたいのがあって、それを反映させて歌詞にするとしても、もともとの……体験とかっていうのは跡形もないぐらいにしたいんですよね。何があってその詞が生まれたかってのはわからなくしたいんですよ。それがわかると限定しちゃうっていうか、ワイドショー的な興味っていうか……私小説的なアプローチになってしまうと思うんですけど、そうじゃないふうに書きたいってのがずっとあって。曝け出すっていうか、そういうのは野暮だなと思うんですよね。……それで、前作はその極みなんですよ、やっぱり。音楽的にもそうだし、歌詞も相当深いところに潜っちゃったんですよね。ひとりでこう……なんでかわからないですけど、深いところまで行ったっていうイメージなんですよ。だから今回はもっと楽にいきたいって思いまして、それで音楽的な面でも……わかりやすくというか、わかってもらいやすくというか、いい意味でポップっていうふうにしたし。詞のほうもたまにすごく直接的な表現を入れてみたりとか。いままでだと絶対しないような書き方をした箇所が何か所かだけあるんですよね。たまにそういう、何のフィルターも通ってないようなものをそのまま乗せると、アクセントになるかなあと思って……そんな計算とかをしてられない部分もあったんですけど。書かずにはいられないみたいな」

――それは、個人的な何かがあって?

「そうですね。もうホント辛くて、バンドが。まあ音楽が好きで作ってるんですけど、この世界みたいな、音楽の業界っていうものに対して〈もう無理です〉って気持ちが大きくてですね。ホントにビビりなので、数字とかそういうのも含めて……果たして聴き手に伝わっているのかっていうところも。なんか、いろんなことができなかったんですよね。最低限の装飾をする余裕がなかったっていうか……それで、直接的な表現をせずにはいられなかったところもありますね。歌詞は前回と切り離したところにあると思って。デビュー作から前回のフル・アルバムまでは、僕からみたらキレイな流れがあるんですけど、今回は違う流れに位置していますね」

――そうなんですね。私は先にこの2作目を聴いて、過去作に遡った派なので驚きましたけど。

「途中から頭おかしくなってる感じが自分でもあって(笑)。ある時期から〈この人、辛そうだな〉ってのが……客観的に聴くともう、〈きてるねえ〉〈だいぶやられてるなあ〉って。で、ファースト・アルバムに行き着くっていうか。〈君〉とか〈僕〉とかいうのを使わないで歌詞書いたりとか、ロックンロールが〈アイラヴユー〉の音楽だとしたら、〈アイ〉と〈ラヴ〉と〈ユー〉をまったく使わないでそれを表現するみたいなことを、勝手に追求してたりとか。その一人称、二人称がないところまで削ぐっていうか……っていうのにすごい深入りしてったりとかして。英語使わないとか。頭おかしいですけどね。でもすごいやりがいっていうか……えーと………………ホントはそういうことを引き続きやりたいって気持ちも、一方ではあるんですけどね。今回の歌詞は、ホントやけっぱちで書いてますね。こういうのでいいんでしょ?っていうのがあると思います」

――ん? 自分が本当にやりたい方向とは違うの?

「いや、そうじゃないんですけど。そういうふうに思われないように言いたいんですけど…………そうですね………(考え込む)………今回は、前作とは違うプールに飛び込んだって感じですかね。両方別にやりたいことなんですけど…………1枚通して縛りたいんですよ。何か、枠があると燃えるんですね。そもそもバンドの格好良いところって、トリオだったら3人いて、〈各々の楽器と声っていう6つの音だけで表現する〉っていう制限だらけのところで工夫しながら音楽を作る、そういう〈やせ我慢の美学〉みたいなところ……そこがロックンロールのいちばん格好良いところだと思ってるんですけど……そういう不自由ななかでやることに燃えるんですよね、僕って。1枚のCDのなかで、何らかの縛りを入れるっていうのが、ひとつの基準っていうか。この1曲というか1枚を通して、一貫させたいっていうのがあって……それは事前に決めることじゃなくて、どっかでなんとなく思うんですよね。〈曜日を全部入れてみようかな〉とか、ある程度作業が進むと、ふと思うんですよね。キーがAだけで1枚作りたいとか。Aの9thってコードが好きなんですよ、僕。ポリスの〈見つめていたい〉のコードなんですけど、Aばっかりで作っちゃうんですよね、好きすぎて(笑)。で、6thの音をメロディーに入れるのが好きで、それが僕のトップの音だったりするんですよ。F♯なんですけど」

―― ……はい。

「Aってローコードだから、僕のスタイルだとちょうどいいんですよね。開放弦が多いほうが鳴るんです。パワーコードだとローコードに劣るので。Aだと、3コードの場合DとEで、全部ローコードでできるし。もうAがホント大好きで(笑)。Aで全部作ろうと思ったらそうしてしまうんですよ。マイナーは1曲も作らないとか。実際the HANGOVERSはキーがマイナーなのは1曲しかないんですよね。それはワイルドハーツがそうだからなんですよ。〈マイナーの曲なんてクソだ〉みたいに言ってて、〈葬式みたいな音楽だ〉みたいなホラを吹いてて。〈ああ格好良い〉って思ったら、それでしか作らないみたいなことをしちゃうんですよね。ハマリ性っていうか、凝り性っていうか。〈ずっとそこにいたい〉みたいな、〈安心してたい〉みたいなタイプで……それで前回のアルバムを作ったんですけど、今回はそこから〈出た!〉って感じですね、2時間ぐらいお風呂に入ってて、出たって感じです(笑)。そのお風呂とかお布団とかって、超気持ちいいけど、ある意味では嫌々出るけど、でも、それは必ずしもやりたくないことではないじゃないですか。引きずり出された、叩き起こされたって感じですかね。ヌクヌクしてたところから移動して、今回のを作ったって感じですね」

 

カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2010年04月19日 20:30

更新: 2010年04月19日 21:36

インタヴュー・文/土田真弓