INTERVIEW with 桜井青(1)――どんどん墨で塗り潰されるような歌詞
――発売延期を経てようやく完成した『11』。今回は1曲ずつ細かくお訊きしようと思っているんですが、楽曲はそれぞれ、ある程度の曲順を想定して……例えばこれは1曲目に入る曲、2曲目に入る曲、ということをはじめから想定して書かれていたというお話でしたよね?
「そうですね。曲順は考えながら作りましたよ。最初に11曲という枠があって、シングルというピースがあって、『11』というパズルを完成させるのに足りない曲を作ってったんですよ。その曲順も、石井さんと僕で出したものが大体同じで、違ったのは、僕は“暗中浪漫”を3曲目にしたかったかな、ってことぐらい」
――9曲目の“暗中浪漫”と3曲目の“娑婆乱打”が逆ということですね?
「そうそう。あとはほとんど同じでしたね。こういう流れで、ここにこういう曲を入れたいっていうのもやっぱりいっしょだったし」
吐イテ棄テロ
――その導入となる1曲目“吐イテ棄テロ”の担当は石井さんですね。
「これはねえ、1曲目になっちゃったんです。全部で11曲入れるっていうのは最初に決めてたわけですよね。それで“吐イテ棄テロ”はけっこう前の段階からあった曲で、この曲を1曲目にしたパターンと2曲目にしたパターンっていうのを作ってみたんですけれど、2曲目にしたパターンだと、他にも必要な曲があるからどうしても曲が多くなっちゃうと。だったらあえて1曲目みたいな曲を別に作る必要はないかなっていう。1曲目っていうのはインパクトが必要なんですよ。で、2曲目っていうのはライヴの定番になるような曲なんですよ。いろんな意味で勢いがある曲。それで“吐イテ棄テロ”はホントは2曲目あたりにしたかったけど……でも、何回聴いてもやっぱり1曲目ですよね、これ。結果1曲目になったんじゃなくて、やっぱり1曲目だったんですよ、作った時から。不思議な曲ですからね。現時点のcali≠gariというバンドのイメージを打ち出すのであれば、十分すぎる曲じゃないですか? 〈なんなんだ、これは?〉っていう。かと言って、すごくこの曲、パワーがあると思うんですよね」
――エスニックなシンセ・リフがリードする重厚な冒頭から、サビに入るとまたガラッと印象が変わりますし。
「そうそう。いろんな要素がホントに混ざってておもしろい曲だと思いますね」
――この曲のなかではギターがいちばん攻撃的かと思うんですが、石井さんから何かリクエストはありました?
「基本は〈お好きにどうぞ〉って感じなんです。そのなかで、cali≠gariらしい感じにメチャメチャにしてくれって言われました。それで、cali≠gariらしいっていうとやっぱり不協和音しかねえよな、と。かと言って、不協和音を鳴らすなかにもちゃんと一定の法則がある、みたいな」
――いまおっしゃっていただいたギターのお話は、曲自体にも当てはまりますよね。混沌としているんだけども、解体すれば端正な作りになっているという。
「細かく作ってますね。こういう曲は、ノリ一発ではどうにも難しいですね、やっぱり。グチャグチャなようで、意外と計算はしてるんですね」
JAP ザ リパー
――“吐イテ棄テロ”と2曲目の“JAP ザ リパー”は間髪入れずに繋がってますけど、これは連作ですか?
「意図してますね。1曲目と2曲目を繋げる感じでやろうっていうのは最初から想定してましたね、石井さんは」
――詞が青さんで曲が石井さん。こういったお二人の共作は初めてですよね?
「そう。ホントに今回初めてなんですけど、単純な話、石井さんはGOATBEDもやってた(ゲーム音楽の制作があった)しライヴもあったしで、本当にしっちゃかめっちゃかな状態だったんですね。それで〈俺、歌詞も曲も無理だから、どっちかを青さんが〉みたいに言われて。〈ええ~? じゃあ歌詞は嫌だから、曲ぅ~?〉って言ったら〈俺も歌詞は嫌だから青さんやってよ〉って、どっちがどっちよ、みたいな(笑)。最終的には〈じゃあ、じゃんけんで勝ったほうが詞か曲、どっちか取ることにしましょう〉ってなって、負けて〈ガーン!〉みたいな(笑)」
――歌詞を書くのは本当に時間がかかるっておっしゃってましたもんね(笑)。
「まあでも、こういう曲って遊びの曲じゃないですか。だから、考えないでノリ一発? 石井さんからちゃんとテーマをもらったし」
――どういうテーマですか?
「〈歌詞カードに載せられないような歌詞にしてくれ〉っていうのがあったんですね」
――はあ(笑)。
「どんどん墨で塗り潰されるような感じにしてくれ、って。〈それはどういうこと?〉って訊いたら、いわゆる〈キ■ガイ〉だとか、〈白■〉だ、〈カタ■〉だ、そういうものがどんどん飛び出していいですよ、みたいに言われたんですよ。曲を最初に聴いたときも、〈うわ、懐かしい感じだな~、この曲〉みたいな(笑)。古き良き感じだな、って思ったんですけど(笑)、だからまあ、それに沿った歌詞にすればいいのかなって。でもね、作ってみたらちょっと違う方向に行ったな、っていう。拙いっていうか、僕にしては久々にこういう歌詞書いたな、って(笑)……いやね、ヴィジュアル系って人を殺すだなんだって書くじゃないですか。要はそれですよ。ただ、日本の殺人って海外に比べてわりかし陰惨なものが多いんですよね。いや海外だって陰惨なものはあるけど、日本ってやっぱりその、国柄っていうんですかね? やり口が陰惨ですよね」
――そうなんですか?
「やっぱりね、日本の殺人者のファイルとか読んでても、どういう人格形成をすれば、生きている人間に対してそういう行為ができるんだろう?みたいなのがいっぱいあるんですよ。例えば古いのだったらば、女子高生コンクリート詰め殺人事件に加担して、いちばん早く(少年院から)出た子が書いた手記みたいなのがあるんですよね。あとは〈葬式ごっこ〉っていう本があるんですけど、それだとか……海外って、そこまではいかないと思うんですよ。まあ、確かに海外にもジェフリー・ダーマーとか歴史的に有名な方はいますけど、そういう著名な方々じゃなくて、日本はお隣にそういうことをする人がいそうで怖いっていうことなんですよね。だって、どんな変質者や殺人者でも、周りの人のインタヴューとかでは〈ホントいい人〉で、って。普段はいい人がやるんですよ、そういうことを。おかしいですよね? だから、日本のなかにある陰惨な因子? 遺伝子的に陰惨なものっていうのが、すごく嫌だなって思ったんですよね。言っちゃえば、そういうものがテーマで書いてるんです。〈ジャック・ザ・リパー〉っていうのが“JAP ザ リパー”っていう」
――切り裂きジャック。
「を、かけてるんですけど、ただその〈JAP〉にはそういう意味合いがあるっていうね。日本人の、独特の、陰惨な殺し方みたいな。すごい嫌ですよ」
――情念や執着心とも違うような気がしますけどね。その人に思い入れがなくてもそういうことができてしまったりする。
「難しいですよね。例えば、昭和の推理小説ってあるじゃないですか。戦前のものだったらまあ金田一(耕助:横溝正史の推理小説に登場する探偵)だったりとか、明智(小五郎:江戸川乱歩の推理小説に登場する探偵)とかありますけど、やっぱり作者たちの素晴らしい感性と趣味趣向を凝らしたような死体の作り方をしますよね。ああいうものって、どこか土着的な陰惨さ……〈土着〉ってなんか、僕のなかで陰惨なイメージを含むんですけど、そういったものがないと作れない発想だなと思うんですよね。血の因習とかって言うんですか? 村っていま少なくなってるけど、村独特の掟だったりとか、ありますよね。なんかすごくドロドロしてる……血が濃い感じ。そういうなかから生まれた因習的なもの。〈八ツ墓村〉とかそうじゃないですか」
――ああ~、はい。
「そういうことなんですよ、言いたいことは。だから久々にね、人殺しみたいな感じの歌詞を〈バーン!〉って書くのならば、ちょっと一歩先に踏み込んでみようかな、って」
――確か“暗中浪漫”のインタヴューの時、石井さんが〈本当は血みどろの歌詞にしたかった〉みたいなことをおっしゃってたんですけど。
「マジですか(笑)?」
――それが託されたんですかね(笑)。
「嘘ぉ~(笑)。でもね、これあともう一個あって、この歌詞、意図的に駄目って言われて消されてるんですけど、〈やっぱビ●ター、気付かなかったか〉みたいなところもいくつかあるんですよ(笑)。そういったトリックもちょっと入ってます。消されるってわかっててあえて出してるところもいろいろあるんで。それがなんか、石井さんの意図的な部分であったらしいから。要は、ただのお茶目ですよね(笑)。消されるってわかってて出してるっていうところがお茶目(笑)。そういうのって、石井さんの性格上、自分ではやりたくないんですよ、きっと(笑)。〈青さんがやったらいいんじゃない?〉ぐらいに思ってるんじゃないですか(笑)?」
――それはあり得るかもしれません。
「これはね、最初に石井さんが作ったデモにメロディーが入ってたんで、僕にしてはホントに珍しいんですけど、メロも石井さんのままなんです。だから、最初に石井さんがわけのわからない言葉で歌ってたやつに、そのままの譜割りでこれを当てはめてるんです」
――それは、作りにくくないんですか?
「作りにくいですよ、やっぱ自分のなかにない譜割りだから。石井さん的にはメロディーも変えちゃっていいって言ってたんだけど、メロディーを変えるっていうか、作るほうが面倒臭かったから」
――はは(笑)。
「でも“JAP ザ リパー”って、なんかトンチっていうかシャレが効いてていいなと思ったら、“JAP THE RIPPER”って曲がB'zにもあったからビックリしたんですけど」
- 前の記事: cali≠gari 『11』
- 次の記事: INTERVIEW with 桜井青(2)――性に堕落していくテディベア