INTERVIEW with 桜井青(4)――青春独特の薄暗さ
最後の宿題
――そこは石井さんにお伺いしますね。では次の“最後の宿題”ですけども。これは〈#_2〉のエンディングでチラッと流れていた曲ですね。
「そうですね。ちょっとがんばってみました。個人的には好きな曲です。なんか、懐かしい感じしません?」
――します! シンセをはじめとした音色といい、曲調といい、〈ザ・90年代〉という空気感があって。日本のニューウェイヴもののなかでも、わりとTVの地上波で聴くことができたようなエレポップですよね。
「これは、ネタばらしはちょっと言葉にはできないんですけれど、完全に○○○○(あるバンド名)と同じにしてみたんです。○○○○の使ってたような音飾で作ってるんです。メロの作り方とかもちょっと意識してるんですよね」
――そこまで狙ってたんですね。
「作ってたら、石井さんから〈いっそこうしちゃったら?〉みたいに言われて、〈ああ、それもいいね〉ってちょっと路線変更っていうか。頭にあったのは“スクールゾーン”みたいな感じのものだったんですけど、こういうアレンジでもいいかなと思ってやったらちょっといい感じになったんで(照れ笑い)」
――歌詞に〈青く! 碧く!〉とありますけど、この青春を想起させる蒼い詞世界は“スクールゾーン”にも、あと最近の曲で言えば“初恋中毒”とも通じるところがありますね。
「言ったじゃないですか、ラヴソングを書くって。だからこれは、『11』におけるラヴソング三部作ですよ。“初恋中毒”と“その斜陽、あるいはエロチカ”とこれで」
――そうなんですね。ラヴソング……三部作?
「勝手に三部作にしましたけど、いまね(笑)」
――青春という視点では、“東京、40時29分59秒”とも繋がるのかな、って。
「さっきまでやっていた取材でもそう言われたんです。これは繋がるんですよね、みたいに。ああ、やっぱりそう取られちゃうんだ」
――“最後の宿題”がラヴソングだということは理解してるんですけど……あの、だいぶ遡るんですが、活動休止直前の『8』における青さんの曲は、すごくヘヴィーだったと思うんですね。
「そうですね……うん、そうですね」
――そこから、復活後の視点はずいぶん……。
「ライトだと思います」
――はい。“スクールゾーン”もそうですけど、蒼い季節に対する目線が変わってきてるのかな、と。
「目線もそうですし、ご存知だと思うんですけれど、復活してからはあえてそういうものは書かないっていうのがあって。だけど、石井さんは〈俺は何でも歌う〉みたいなことを言ってるし、今回はちょっと歩み寄ってみようかなっていう。その蒼いものに関してさらに違った視点で……蒼いものにラヴな感じのものを混ぜてみたらどうなるかな、って。だから個人的に言うんだったら、いちばん近いのは“ブルーフィルム”(現在の第7期メンバーによる初のアルバムである2000年作『ブルーフィルム』に収録)とかですよね」
――なるほど。
「蒼いし、重いし。言ってることは全然違うんですけれど、近いのはそのへん。これは」
――わりと私小説的な作りなんでしょうか?
「私小説的なところもちょびっとありつつ、〈みんなこんな感じじゃない?〉っていう。歌詞にある〈群像劇〉っていうのはそういうことなんですよ。誰でも初めてって、こういう感じじゃないですか」
――そこは、わかりました。何を書いてるのかはわかったんですよね。順番としては、“初恋中毒”のその先ですよね。
「そうそう。先なんだけど、“初恋中毒”は〈いつまで経っても言えなくて〉っていう意味で。だから、同じ人間ではないです。主人公が3人いる感じですよね。奥手な主人公Aの“初恋中毒”。いきなり振り切っちゃってる(笑)主人公Bの“その斜陽、あるいはエロチカ”、あとは平均的な青春をエンジョイしている主人公Cの“最後の宿題”みたいな。最初はこういうもんだと思いますよ」
――いわゆる初体験、ということですよね。
「そうですよ。〈言葉だけじゃ足りない、焦がれる想い〉なんですよ。〈夏の終わりは僕たちをおかしくさせる薬なんです。駄目なんです。汚れることが美しいと教えてくれた紫の夜明け前、最後の宿題〉なんですよ」
――はい。その通りです(事前にもらっていた資料の最後の部分の歌詞が抜けていたため、耳コピしたものをその場で添削された)。
「これね、どういうふうにすれば甘酸っぱく切なく書けるかって、すっげえ時間がかかった(笑)。曲は8月ぐらいには出来てたんですけど、歌詞を書き終わったのは11月……? もう2か月ぐらい書いてた。出だしだけは書けたんですけど……もう長くなっちゃって、どう詰めよう?って。要らないところを削除、削除、ってね」
――物語性を持たせていたから長くなった?
「うーん、僕の原体験っていうか……これはいろんな歌詞に出てくるんですけど、〈ビルの屋上〉と〈貯水タンク〉っていうのは僕にとって大事なんですよね。高校の時の学校の屋上が大好きだったっていうのと、自分の地元にあった廃ビルの屋上……貯水タンクがあったんですけど、そこがすごく好きだったんですよ。そこで見ていた景色っていうのはやっぱりすごく残ってるから、大林宣彦の尾道三部作じゃないけれど、自分の歌詞のなかにビルの屋上だとかそういう光景が出てくるっていうのは、しょうがないことなんですよね。そういうところで私小説みたいなところは出てますよね」
――そして甘酸っぱさということで言えば、ここで描かれているのは幸せな初体験ですよね。
「そうそうそう。これは幸せなほうなんです。大抵の人は“初恋中毒”みたいな感じなんですよ。初恋は報われないんですよ。だけど大体において、こういう綺麗なことを最初にできちゃう人っていうのは、上手いんですよ、いろんなことに対して。そのあと簡単に、いくらでも適当な恋愛ができちゃう人っていうことですよね。最後に僕、そういうことを言ってるんです。〈青春とは罪なき犯罪の日々です。いまは昔、変わらぬ群像劇〉って。青春の、何かひとつを手に入れたことによって出てくる後ろめたさみたいなものですよね。なんか、青春独特の薄暗さみたいなのあるじゃないですか。そういったところですよね、これは。本当にそれが犯罪かどうかって言ったら犯罪じゃないですよ。けれど、あえて犯罪っていう言葉で置き換えて……いまの人も昔の人も、変わらないんです、こういうことは、って」
――はい。
「いまここで書いてるのは幸せそうなことでありながら、実はそうではないんです。僕からしてみれば、不器用でも“初恋中毒”のほうが好きなんですよ」
――まだ何も失われていない。
「少年の心とかね、少女の心を忘れてないんです。“最後の宿題”は、けっこう大人びてますよ。これが14なのか15なのか16なのか17なのか18なのかわからないですけど、確実に二十歳超えた話ではないですから。でも、共感はしちゃやだな、これは。みんなもっと不器用にいってほしい。僕はこんなに上手くはなかったし」
――この美しさはどこか、あだち充作品にも通じるような。
「ああ! そんな感じ、そんな感じ! あだち充って、すごい難しい空気感じゃないですか。わかるんだけれど、一般の人はこの世界、誰も体験できないよ、って。あれは憧れの世界ですよね? だって僕、すごく南(あだち充の代表作〈タッチ〉のヒロイン)になって(松平)孝太郎(〈タッチ〉に登場する野球部のキャッチャー)に抱かれたかったもん!!」
――(笑)まあ、南ちゃんになりたい人は多いでしょうね……それで話を戻すとですね。
「そうですね。個人的には“最後の宿題”みたいな初体験したかったなー、みたいな(笑)。(鼻にかけた声で)南になりたかったなあって」