INTERVIEW with 石井秀仁(4)——今回のアルバムは〈ヴァラエティー〉
アイアイ
――(笑)では続いての“アイアイ”ですが、これは“混沌の猿”に続く……。
「〈猿シリーズ〉です」
――そんなシリーズがあることを存知上げなかったです(笑)。
「作ったんですよね。〈なんだそのシリーズ!?〉みたいな(笑)。これは単純に知り合いのお子さんが“混沌の猿”をライヴで観てね、猿なのになんで〈ナウナウナウナウ〉って言ってるの?って言ったらしいんですよ。〈猿はアイアイでしょ〉って言ったらしくて、子供ってすげえ!と思って。デモの段階でそれ言ってくれたら、その部分を〈アイアイ〉にしたんだけどな、って話で盛り上がったことがあったのね。子供すごいね~って。で、それをまたね、さあ、どんな曲作りましょうかって思った時に、思い出すじゃないですか。〈じゃあ“アイアイ”いっときますか!〉みたいな感じになるわけですよ」
――では〈アイアイ〉という言葉ありきですか?
「それがまた違ってね、別の“アイアイ”もあったわけですよ。今回、最終的に出さなかった曲もあと2曲ぐらいあったんですよね。で、こういう感じで“アイアイ”にしようかなって思ってた曲があったんですけど、でもこっちのほうが、曲調的にも最後のほうの進行とかがすげえ“混沌の猿”とそっくりになっていくわけですよ。普通に〈猿です、猿です〉って言ってて。それだったら、これが“アイアイ”だなと。猿シリーズをそんなにボンボン出してもね、っていう(笑)」
――あと、この曲はリズムがおもしろいですよね。
「ちょっとシャッフルみたいな感じですね。もともとのデモはシャッフルみたいに聴こえるってだけで跳ねてはいなかったんだけど、それを人間が少しずつ演奏することによって、勝手に微妙に跳ねたっていう」
――青さん、ギターが難しかったっておっしゃってましたよ。
「うん、〈ズッカ・ズッカ・ズッカ・ズッカ〉っていうリズムでね。〈難しかった〉って言ってたのは俺ですよ。俺も仮ギターを弾いてたんですよ。たまたまスタジオにギターが置いてあったから、ちょっと弾いとこ、と思って弾いたら難しくて。〈これ難しいな、青さん絶対ハマるね〉って勝手に思ってて、〈ホントに難しいよ~?〉みたいなことを青さんに言ったらもう、一発でキメてきて。〈ふふ~ん♪〉みたいな感じだったから、〈あっ、そう〉って」
――ムキになったんですかね(笑)。
「もう全然すごいね、って(笑)。ああいうリズムってやっぱね、慣れてないと……まあでもああいうの得意なんですね、青さんは」
――あとシンセの入り方も大仰で、展開が派手ですよね。
「そうですね。サビとかちょっとビックリしますよね(笑)。〈なんだこれ!?〉って。で、最後にクリック入っちゃいますからね」
――コーラスも〈よ! エンタテインメント〉とか〈だいたいつまりはあのねのね〉とか、ずいぶんエキセントリックで。
「エキセントリックな部分は託すんですよ(笑)。この〈よ! エンタテインメント〉っていうのは普通の歌なんで、青さんには〈すごく切なく歌って〉って。でも言ってることは〈よ! エンタテインメント〉っていう。自分ではやりたくない、みたいな感じですよ(笑)」
――出ました、そのパターン(笑)。青さんにしてみれば、〈よ! エンタテインメント〉と切なく歌ってみたかと思えば〈だいたいつまりはあのねのね〉で絶叫という……全体的に、ハチャメチャなおもしろさがある曲ですね。
「例えば、すごく楽しくてバカみたいなものとシリアスなものって、ホントに紙一重でしょ? ここがこうだからすごく真面目な感じに聴こえるけど、そこがちょっと違ったらめちゃめちゃギャグだね、みたいな。その紙一重の感じを1曲のなかで出したくて。だから、さっき〈大仰な〉って言ってた……サビではすごいのくるじゃないですか。あそこだけ聴いたらだいぶこれ切ねえ曲だぞ、みたいなところから〈だいたいつまり〉になっちゃうわけですよ。その、一歩間違えたらこっちだ、あっちだ、ってなっちゃうようなギリギリの感じで進んでいって、結果、両方に間違えちゃうみたいなフィニッシュをしたかったんですよね。そういう曲を作りたかったっていうのはありますね」
初恋中毒
――そして次は“初恋中毒”。これは石井さんが歌うヴァージョンですが、テンションの高い青さんヴァージョンと比べるとソフトな歌い口ですよね。
「いろいろ試したんですけど、そうなりましたね。最初はじゃあ元気よく、って思ったんですよ。俺、意図的に声色を変えたりとかは基本的にしないんですね。曲調によって自然と変わるようなところは当然ありますけど、そういうの以外は変な声を出したりとかしないから、そういうふうに歌ってみてもおもしろいかなと思ったんですよ。ちょっとやってみたんですよね、それで。そしたらすっごい青さんのモノマネしてる人みたいな感じになって、〈これは……(苦笑)〉と思って。青さんのモノマネしてる人か、X JAPANのhideさんに憧れてる人か、あと(毛皮の)マリーズかな? そういう声色ですよ。けっこうそのテイクで進んでたんですけど、冷静になって考えてみたら、やっぱりこれ、俺がやってると思うとさぶいぞ、と。もう本当にだんだん寒気がしてきて、〈駄目だこれは!〉って全部歌い直して……普通にやろうって(笑)」
すべてが狂ってる
――(笑)続いてはシングルにも収録されていた“すべてが狂ってる”ですが、今回は〈私は子どもが嫌いです 編〉ということで。
「このバンドのおもしろいところっていうのは、こういうところですよね。〈私は子どもが嫌いです〉って、伊武雅刀ですからね。青さんから〈私は子どもが嫌いです 編〉ってどう?みたいに言われて、〈それ、伊武雅刀じゃん〉っていう会話が成立するバンドなわけですよ。そこがちょっとすごいなって思いますよね。伊武雅刀で“子供達を責めないで”ってあるじゃないですか。それの歌い出しですからね(笑)。まあ子供といい感じに絡んでますよね」
――なんだか、青さんがたった一人で子供たちに立ち向かってる感じがありますよね(笑)。
「(笑)こういうの俺、ホントすごいなと思うんですよね。曲と歌詞とが一体になってこの変な世界観が出来てるわけでしょ? 例えば曲だけね、インストで聴いたらけっこう普通の曲ですよ。それがあの変な歌詞と、ああいう子供のコーラスと相まった結果の、このストレンジ・ワールドですからね。そういうものを狙ってやれるっていうのは、まあ俺にはできないっていうかやろうと思わないけど、すごいなと思いますよね。こういうのがまたオリジナリティーというか、最近のcali≠gariにはない感じなのかなと。だけどすごくcali≠gariらしくて、と思いましたね」
――破天荒ですよね。
「破天荒って言ったら、破天荒な人に悪いですよ(笑)」
――すみません(笑)。
「いろいろ悪いな、って思いますよ。たまに全然知らないバンドのインタヴューとかを読むと、わりとみんな〈ヴァラエティーに富んだ〉みたいなこと言ってるじゃないですか。作った本人も、ライターの方も。はい、きましたよ、これ、みたいなね」
――今回のアルバムは、ヴァラエティーに富んでるどころの騒ぎではないと。
「そうですね。まあヴァラエティーに富んでる方々にも失礼だなと思いますね」
――では、この『11』はどう表現しましょうか……。
「ヴァラエティーですよ。富んでるわけじゃなくて、ヴァラエティーなんです(笑)」