インタビュー

INTERVIEW with 石井秀仁(5)——各々のプレイがあればそれでいい



暗中浪漫~最後の宿題~東京、40時29分59秒



――〈11曲まとめて、ヴァラエティーである〉と(笑)。そして、9曲目は直近のシングルの“暗中浪漫”。これは歌い直しはされてますか?

「してないですね」

――こうして流れを追ってくると、“娑婆乱打”と“暗中浪漫”はここに入るしかないな、というのはありますね。そしてここからは青さんの曲が2曲続きますが、まずは“最後の宿題”。これは〈どうせなら徹底的に○○○○(とあるバンド名)っぽくしちゃえば?〉というようなことを石井さんに言われて……と、青さんがおっしゃってましたが。

「ただ、○○○○っぽくするのは生易しいことではないので、これは、キーボードと打ち込みの両方を別の方にやってもらってるんですけど。素晴らしいですね」

――歌詞は、青さんにとっては相当大事な曲のようですが……。

「ああそうなんですか? そういう話はしないですからね」

――詞の世界に入り込むことはない、って以前おっしゃってましたもんね。

「うん、そういう作業って俺、無駄だと思ってて。いわゆる精神論みたいなの、すごい嫌いだから。楽曲に入り込むには歌詞を理解してとか、ホントにご勘弁ください、っていう感じなわけですよ。逆に俺、昔のポップスでおもしろいなって思うのは、作家が書いたすごくグロテスクな歌詞を、何も知らないアイドルが歌ってるってことですよね。理解してないまま、すっごく可愛らしく歌う。そういうのたくさんあったじゃないですか。グロテスクとは言わなくてもエロティックなものとかを、言葉の意味も理解してない可愛い子たちが歌う、みたいなね。ああいうのがやっぱり不思議なムードというか、一筋縄じゃいかないような空気感を生み出したりする。俺もね、青さんが書いた歌詞を歌う時にはそういうニュアンスというかね、そういう立ち位置でいたほうがおもしろいなって思うんですよ」

――ある種のミスマッチ感覚ですかね。

「ふと気付くことはありますよ。ライヴで歌ってて……ライヴで歌ってても大体青さんの曲は(モニターのカンペを)見てるんだけど(笑)、いきなり〈ああこれ、こういう意味なのか〉って思ったりするっていうかね。そういう瞬間があったりするんですよね。そこもcali≠gariらしくておもしろいなと思って」

――“東京、40時29分59秒”に関しては、シングルとはアレンジが変わってとても余韻が残る作りになってますけども、“吐イテ棄テロ”で始まってこの余韻で終わるアルバムってなかなかないと言いますか。

「ええ、そうですね。バンドをやっていて、例えば1曲目のような曲を基本的にやってった場合に、この最後の曲みたいな曲を演奏しようとは思わないですから。逆も然り、ですけどね。それが共存してるっていうのがおもしろいっていうか、これなんだよね、って感じですよね」



各々のプレイがあればそれでいい



――以前の取材ではcali≠gariの音が欲しい、ということをおっしゃってましたが、その点はいかがですか?

「それもまた、レコーディングをしていくなかで当初思ってたこととだいぶ変わったことが多々あったんですけど、俺が〈cali≠gariの音が欲しい〉って言ってたことって、さっき話したようなことで。曲がどんどん普通にまとまりすぎてたってところでそういう気持ちになってたんだな、ってことに途中で気付いたわけですよね。無駄に歪んでたりとか、そういう特殊な音質っていうのも狙ってやってる馬鹿馬鹿しさみたいなのがあって違うなあと思って。で、その〈cali≠gariの音が〉みたいなことって、結局は青さんのギター・プレイだったりとか、まあベースのプレイも全部そうですけど、そういう部分なんですよね。もともと考えてたものとはまったく逆で、そういうプレイがあれば、別にラジカセみたいなので録ってても別にいいか、みたいな。そういうところに辿り着いたと。勝手にひとりでですけどね。どんなにいい音でもどんなに悪い音でも別にどっちでもいいんだ、ってことでしたね」

――それはつまり、メンバーそれぞれの個性を解放するということですよね。

「うん、そうですね」

――その個性がうまく混ざったものが、今回の『11』であると。

「混ざってるのかどうなのか、みたいなところがいいんじゃないですか? たぶん、混ざってるものっていうのはけっこう調ってるものだと思うんですよね。そこがちょっと危うい……〈混ざってる……かな?〉ぐらいがいい。混ざってなくても駄目なんですけどね(笑)」

――そこのギリギリのバランスというところですかね。

「そうですね」



もう後悔することはない



――それでは最後の質問ですけど、青さんは〈#_3〉か『12』かわからないけど、次を考えなきゃね、とおっしゃってたんです。石井さんはいかがですか?

「どうですかね。いまは次の音源とかにはあんまり頭がいかないですね。いつもはこれをこういう感じでやったから次はこういう感じがいいな、みたいなのがなんとなくあったんですけどね。例えば前の『10』を作っている最中にはレコーディングが終わる前から〈ちょっと足らないからもう一枚ミニ・アルバム出そうか〉みたいな話をしてたし。そのミニ・アルバムをあのタイミングで出したのも、それを出してライヴやんないで休止しちゃうとか、そんな目的があった。まあ、言ってみれば純粋ではない部分があった気がするんですよね。で、cali≠gariにはその純粋でない部分がとても似合うんですけど、ただ今回は、ホントにこのアルバムを作ることだけしか考えてなかったから……これね、別にネガティヴなこと言ってるわけじゃないですよ? 全然」

――この『11』は純粋に〈良い作品を作る〉という目的のもとで制作し、その上で後悔する部分はないということですか?

「そうですね。何か足りないって思うとしたら、それはライヴをやってみないとわからないっていうか。それは客が盛り上がるとかどうこうじゃなくて、楽曲と、われわれと、お客さんとのライヴにおける関係性みたいなのありますよね。そういうのがまだちょっと見えないですからね」

――それがあって、また思うところが出てくるかもしれないと。

「うん、出てくるでしょうね。出てくるでしょうけれども、このアルバムを〈あの時こうしておけばよかったな〉とは絶対思わないでしょうね。それを思うんだったらいま思ってるよって感じなんで、この『11』を作ったことによって、cali≠gariに関してはもう、そういうことは思わないんじゃないかって気がするんですよね。制作の手法もいろいろ試したりしましたけど、もう、やり方だったり形だったりっていうのがほぼ出来上がっていて、それじゃないと出来ないっていうふうになってきてるわけですよね。だからそういう部分において実験みたいなことをすることもないだろうし。だから今回は、いままではこうだった、こうしたかった、っていう部分を、とりあえずは全部解消したようなアルバムではあると思うんですね」

――〈理想的な〉では言いすぎですか?

「理想というか、これぐらいがいいんだ、みたいなことですかね。あとは土田さんが大絶賛しといてくれればね」

――その予定ではありますが(笑)。

「これは時代が時代なら100万枚売れてもおかしくない、とか。ただ残念ながら、いまは時代が時代だっていう(笑)」

――(笑)感想をひとつお伝えするならば、休止期間があるとは言えキャリアのある皆さんですが、初めて見る面がまだあるんだな、と。新たな発見のある作品でしたよ。

「あとはトータル・タイムが短いっていうのがいいですよね」

――そこはいつも通りで……曲単位で言えば、〈東京〉はやや長尺の6分台ですけども。

「そうですね。もちろん短い曲があって長い曲があってっていうのはいいと思うんですよね。いろんなことを変に意識したりしないで作れば、楽曲の理に適った理想の形、理想の時間――これぐらいに収まると思うんですよ? だからたぶん、カセットテープは46分がいいんですよね」

――『11』も収まりますね。

「うん、それぐらいがいい。短かったら、繰り返し聴けばいいんですからね」


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掲載: 2012年01月11日 18:01

更新: 2012年01月11日 18:01

インタヴュー・文/土田真弓

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